ザイゴマ インプラントに関連した論文

本日紹介する論文は、

ナビゲーション支援下におけるザイゴマインプラント治療のためのデジタルプランニング

~はじめに~

今回ザイゴマインプラントに関連した論文でご紹介するのは2026年7月にInternational Journal of Prosthodonticsで発表されたザイゴマインプラントナビゲーション支援下にて埋入するためのデジタルプランニングについて述べた論文です。ザイゴマインプラント治療をまだ始めていない方にもぜひ読んでいただきたい論文です。

〜緒言〜

ザイゴマインプラントは、1989年にPer-Ingvar Brånemarkによって、上顎切除術を受けた患者の顎顔面補綴による機能回復を目的として初めて導入された。 その後、ザイゴマインプラントは、重度の歯槽骨の萎縮を伴う無歯顎上顎に対する、骨移植を必要としない予知性の高い選択肢へと発展してきた。 本治療法は、大規模な骨造成の必要性およびそれに伴う外科的侵襲を軽減するとともに、即時荷重を可能にし、治療期間の短縮にも寄与する。

長期的なエビデンスにより、良好なインプラント生存率が示されており、特に即時荷重プロトコルを適用した場合には、患者報告に基づく生活の質(QOL)の改善も認められている。

当初、ハイブリッドアプローチでは、後方部に2本のザイゴマインプラントを埋入し、前方部には従来型インプラントを併用していた。その後、上顎前方部および後方部のいずれにおいても十分な骨量が得られない症例に対して、4本のザイゴマインプラントを使用するクワッドザイゴマアプローチへと発展した。

近年のGlobal Consensus for Clinical Guidelines(GCCG)による推奨では、重度の上顎骨欠損を有する患者に対する、予知性の高い骨移植を伴わない治療選択肢として、ザイゴマインプラントが位置づけられている。特に、従来型インプラントの埋入や骨移植術の適用が困難な場合、あるいはこれらの治療が過去に失敗した場合に、その有用性が認められている。

さらに、これらのコンセンサス声明では、ザイゴマインプラントの埋入に伴う解剖学的構造の複雑さと技術的難易度が強調されている。解剖学的構造が複雑であり、術中の視認性が限られることから、ザイゴマインプラントの埋入には、眼窩内への穿通、側頭下窩への侵入、知覚異常、ならびに顔面または眼窩周囲の血腫形成といった重篤な合併症が生じる可能性がある。

ザイゴマインプラント治療の長期的な成功は、インプラントの埋入位置および補綴主導型の治療計画に大きく依存するため、良好な機能的・補綴的治療成績を得るには、患者個々の状態に最適化された包括的なデジタル治療計画と、正確かつ低侵襲な外科的手技が不可欠である。

このような背景から、ダイナミック・コンピュータ支援インプラント手術(dynamic computer-assisted implant surgery:d-CAIS)は、有用な手術支援ツールとして注目されている。 d-CAISは、補綴主導型の治療計画と術中のリアルタイムナビゲーションを統合することにより、ザイゴマインプラントの埋入精度および予知性の向上に寄与する。 また、外科的精度と術中の視認性を高めるとともに、重要な解剖学的構造への損傷リスクを低減する可能性があり、インプラントの埋入位置を柔軟に調整することも可能である。

d-CAISの臨床的実現可能性を裏付けるものとして、ザイゴマインプラント511本を対象とした近年のシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、許容可能な精度が報告されている。具体的には、埋入精度の平均偏差は、埋入点で1.81 mm、根尖部で2.95 mm、角度偏差で3.49°であった。

本症例報告の目的は、近年のGlobal Consensus for Clinical Guidelines(GCCG)によるコンセンサスに基づき、著しい上顎骨の萎縮を呈する症例において、補綴主導型かつ患者個別に最適化されたデジタル治療計画の立案過程を提示することである。さらに、従来型インプラントとザイゴマインプラントを併用するハイブリッド型の上顎補綴治療において、ダイナミック・コンピュータ支援インプラント手術(d-CAIS)が有する可能性についても検討する。

〜患者の選別〜

包括的評価(Comprehensive Assessment)

本症例の治療および症例報告の公表については、スペイン・アリカンテにあるVithas Davo Instituto Dental Hospital Medimar Internacionalにおいて、患者から文書によるインフォームド・コンセントを取得した。

患者は58歳の男性であり、口腔機能の完全な回復を希望するとともに、自然な審美性についても相応の要求を有していた(WG4_Rec1;Fig. 1)。上顎および下顎の双方に多数の欠損歯を認め(Figs. 2 and 3)、残存歯には重度の歯周組織付着喪失およびIII度の動揺が認められた。

患者は過去に喫煙歴があったものの、全身的には健康であり、全身疾患に対する薬物療法も受けていなかった。また、可撤性補綴装置による治療よりも、インプラント支持型固定性補綴装置による機能回復を強く希望していた(WG1_Rec1)。

本症例において、GCCGのガイドラインに基づいて実施された治療方針の意思決定プロセスの概要をFig. 1に示す。

 

インプラント治療における評価(Evaluation for Implant-based evaluation)

術前の顔貌分析では、下顔面高は維持されており、顔面下1/3の明らかな陥没は認められなかった(WG4_Rec5)。上顎歯列に重度の崩壊を認めたものの、患者のスマイルラインは比較的低く、上唇の支持も維持されていた。このことから、補綴治療に際して垂直的顎間関係を大幅に変更する必要性は低いと判断された(WG4_Rec5;Figs. 4 and 5)。

残存骨量の評価(Assessment of Residual Bone Volume)

コーンビームCT(CBCT)およびパノラマX線撮影(Figs. 6 and 7)を含む臨床的・画像診断学的検査の結果、上顎臼歯部に重度の骨萎縮が認められ、同部の残存歯槽骨高径は約4 mmであった。一方、上顎前歯部では、骨内インプラントの埋入に十分な骨高径および骨幅が確保されていた(WG2_Rec3)。

高度に萎縮した上顎に対する治療の選択肢 (Options for the Severely Resorbed Maxilla)

患者には、義歯、インプラントオーバーデンチャー、ならびにサイナスリフトと段階的なインプラント埋入を併用する方法、または骨移植を行わず2本のザイゴマインプラントを使用する方法による固定性インプラント補綴治療など、選択可能なすべての治療法について説明した。

適応、治療期間、荷重プロトコルおよび費用を総合的に考慮した結果、患者は、骨移植を伴わない固定性インプラント支持型上顎補綴治療を選択した。

〜診断および治療計画(Diagnostics and Treatment Planning)〜

画像診断と評価 (Imaging and Diagnostic Evaluation)

初期のバーチャルプランニング段階において、固定性補綴装置の種類(FP分類:FP1、FP2、またはFP3)を理解し、明確に定義することは極めて重要である。これは、必要な補綴スペース、軟組織・硬組織の補綴的置換範囲、ならびに審美性や発音に関する重要な治療結果を左右するためである。これらの治療結果は、顔貌および口唇の支持、スマイルライン、利用可能な補綴スペース、口蓋被覆の必要性、上下顎間関係、残存顎堤の形態、歯肉のバイオタイプ、動的な発音機能に対する要求、ならびに経済的条件など、主要な補綴学的パラメータによって規定される。

患者の解剖学的条件、希望、CBCTデータおよび口腔内スキャン記録(WG1_Rec2、WG3_Rec1;Fig. 8)に基づき、欠損歯の臨床歯冠のみを置換し、歯肉から天然歯が萌出しているかのような形態を再現することを目的として、バーチャル診断用ワックスアップを設計した。この設計方針は、固定性補綴装置のFP2分類に該当する(Figs. 9 and 10)。

さらに、患者が清掃を容易に行い、良好な口腔衛生状態を維持できるよう、補綴装置の外形およびエマージェンスプロファイルを慎重に設計した。本症例では、患者の審美的要求と顔貌の垂直的寸法が維持されていることを考慮し、FP2設計が適切であると判断した。

その後、臼歯部までを含むバーチャル診断用ワックスアップを作製し、インプラントの埋入位置および補綴装置の設計の指針とするため、Nobel DTXソフトウェアプラットフォーム(Nobel Biocare)にエクスポートした(WG4_Rec3;Fig. 11)。

 

インプラントの本数と配置 (Implant Number and Distribution)

バーチャル診断用ワックスアップに基づき、残存骨量が十分に確保されている上顎前歯部に標準径の従来型インプラントを4本埋入し、後方部にはザイゴマインプラントによる支持を組み合わせるハイブリッド型の補綴治療を計画した(WG4_Rec6)。 後方部の支持を確保するため、各側の上顎臼歯部にザイゴマインプラントを1本ずつ埋入する計画とした。

デジタルプランニングにおいて、ザイゴマインプラントの埋入計画に用いる2つの重要な基準点を設定した。すなわち、歯槽頂における歯冠側の埋入開始点と、頬骨内における根尖側の埋入終了点である。これらの基準点に基づき、以下の3段階からなるプランニング手法を適用した。

(a) 利用可能な歯槽骨量および補綴装置のエマージェンスプロファイルに基づく、最適な歯冠側埋入位置の決定。

(b) 解剖学的条件を考慮した、理想的な頬骨固定部位の選択。

(c) 両基準点を結んで最終的なインプラント埋入軌道を設定するとともに、上顎洞との位置関係を評価し、上顎洞内埋入、上顎洞外埋入、または上顎洞壁に沿った埋入経路のいずれを採用するかを決定する。

術式(Surgical Plan)

本症例では、Per-Ingvar Brånemarkが報告した手法に従い、ザイゴマインプラントの歯冠側埋入開始点を上顎第二小臼歯部に設定した。Hungらによる解剖学的分析に基づき、骨の厚みおよびインプラントと骨との接触条件がより良好であり、眼窩内および側頭下窩への穿通リスクを低減できることから、頬骨の上方後方部および中央部を根尖側の固定部位として選択した。したがって、本症例では、より安全で補綴学的にも有利なザイゴマインプラントの埋入位置を得るため、C2領域に向かう埋入軌道を計画した(Figs. 12 and 13)。

補綴主導型の治療計画に基づき、6本のインプラントで支持する固定性全顎補綴装置を設計した(Fig. 14)。最終的な全顎補綴装置の着脱方向を統一し、インプラントの埋入角度を補正するため、マルチユニットアバットメントを選択した(WG4_Rec3;Figs. 15 to 17)。

萎縮した上顎骨の特殊な状態:D-CAIS(動的コンピュータ支援インプラント手術)術前ワークフロー (Special Condition for Resorbed Maxilla : D-CAIS Preoperative Workflow)

ダイナミック・コンピュータ支援インプラント手術(d-CAIS)の目的は、術前に立案したインプラント埋入計画に基づき、リアルタイムの三次元トラッキングおよび空間的位置情報を用いて、術者が正確にインプラントを埋入できるよう支援することである。CBCT画像データ、手術器具のトラッキング情報、および患者の解剖学的構造を同一の座標系に統合することにより、ナビゲーションシステムは、計画された歯冠側の埋入開始点から根尖側の到達点までのインプラント埋入軌道をリアルタイムで可視化し、誘導することが可能となる。この機能は、特に長いザイゴマインプラントの埋入において重要である。

d-CAISにおいて、術前の仮想CBCTデータと術中の患者の解剖学的位置を同期させるためには、正確なレジストレーション(位置合わせ)が不可欠である。 歯の欠損や重度の歯周組織破壊により、安定した歯牙指標が得られない上顎無歯顎症例では、信頼性の高い位置合わせ精度とリアルタイムの器具トラッキングを実現するために、侵襲的なフィデューシャルマーカー(位置合わせ用標識)の設置が必要となることが多い。

ザイゴマインプラントの埋入を必要とする重度の上顎骨萎縮症例では、歯の喪失、歯周組織の破壊、および上顎洞の含気化によって、利用可能な残存骨量が制限されていることが多い。そのため、フィデューシャルマーカーの設置に際しては、予定されているインプラント埋入部位との干渉を避ける必要がある。Fanらは、ナビゲーション支援下でのザイゴマインプラント手術において、少なくとも5個のフィデューシャルマーカーを分散した多角形状に配置することで、良好なレジストレーション精度が得られることを報告している。

このプロトコルに従い、本症例ではCBCT撮影に先立ち、5個のフィデューシャルマーカーの設置を計画した(Fig. 18)。CBCT撮影および補綴主導型のインプラント埋入計画の立案を完了した後(Fig. 19)、ナビゲーション支援下での外科手術へと移行した。

〜考察〜

過去20年間にわたり、ザイゴマインプラント治療は大きく進歩し、外科手技および荷重プロトコルの継続的な改良により、機能回復の向上と適応症の拡大が図られてきた。 その結果、ザイゴマインプラント治療は、当初の術者の技術に大きく依存する治療法から、国際的なコンセンサスに基づく推奨に支持された、エビデンスに基づく標準化が進んだ治療法へと発展している。

近年のGCCGの推奨に従い、本症例ではハイブリッドアプローチを選択した。これは、上顎前歯部では十分な骨量が確保され、従来型インプラントの埋入が可能であった一方、上顎臼歯部では重度の骨萎縮を認め、ザイゴマインプラントによる固定が必要であったためである。

複数のシステマティックレビューにおいて、ザイゴマインプラントを用いた補綴治療の長期生存率は約90~95%と報告されており、無歯顎患者に対する従来型インプラント治療と同等の治療成績が示されている。 さらに近年、ハイブリッドアプローチに関するシステマティックレビューでは、上顎の固定性補綴治療において、ザイゴマインプラントおよび上顎前歯部の従来型インプラントの長期生存率は、いずれも高い値を示し、それぞれ95%超および90%超であったと報告されている。

しかしながら、慢性副鼻腔炎、インプラント周囲粘膜炎、補綴学的に不良な治療結果など、生物学的および補綴学的合併症は依然として報告されており、これらは治療計画の立案および外科手技の実施と密接に関連していると考えられる。

このような背景から、デジタル技術の導入は、ザイゴマインプラント手術を、術者の経験に大きく依存する手技から、精密性を重視した補綴主導型の治療ワークフローへと段階的に変革してきた。同時に、無歯顎患者の補綴治療において、歯槽骨内への従来型インプラントの埋入だけでなく、ザイゴマインプラントの埋入においても、ダイナミックナビゲーションの活用が重要な要素となりつつある。

コンピュータ支援インプラント手術(CAIS)の適用は、安全性の向上と低侵襲な手術を可能にするだけでなく、術前に製作した補綴装置を用いた即時荷重を支援し、術後の機能制限期間の短縮および患者満足度の向上にも寄与する。

さらに、デジタルプランニングは外科的埋入精度の向上にとどまらず、インプラントの埋入軌道、スクリューアクセスホールの位置、マルチユニットアバットメントによる角度補正、および補綴装置のエマージェンスプロファイルを最適化することを可能にし、より予知性の高い補綴治療結果を支援する。

したがって、ハイブリッド型ザイゴマインプラント治療では、将来的にザイゴマインプラントが失敗した場合や、クワッドザイゴマアプローチへの変更が必要となった場合に備え、救済的なインプラント埋入に利用できる頬骨上方部を温存する目的で、根尖側の固定部位を頬骨の下方部に意図的に設定することも可能である。

〜結論〜

本症例は、ザイゴマインプラント治療のワークフローにデジタルプランニングおよびナビゲーションを組み込む方法を示すものである。定量的な精度評価は実施していないものの、本ワークフローは、解剖学的に難易度の高い症例において、補綴主導型の治療計画の立案および外科手技の実施を支援する可能性がある。

~あとがき~

今回の論文はいかがでしたでしょうか。デジタルを駆使することでプランニングしやすくなり、ザイゴマインプラントのガイド作製などに応用できる技術です。ZAGAのガイドラインだけではなく、GCCGのガイドラインなども用いてザイゴマインプラントの治療計画を立てるのも良いかもしれません。