術前準備
予防的抗菌薬は骨膜下インプラントと同じレジメンで投与された。すべての手術は全身麻酔下で経鼻挿管により行われ、患者の快適性と術中の精度を確保した。
手術手技
切開は片側の上顎結節から反対側の上顎結節まで歯槽頂に沿って行い、術野全体への十分なアクセスを確保した。口蓋弁を慎重に剥離し、本手技において重要な解剖学的ランドマークである歯槽突起および頬骨下稜を露出させた。
一部の症例では、長期的な統合を最適化し、軟組織の被覆を強化するために、ザイゴマインプラントの表面に骨片を添加した。このアプローチは標準的に必須とされるものではないが、臨床的判断および患者ごとのニーズに基づき選択的に適用された。本手技を示す高解像度写真をFigure 7に掲載した。
正確なインプラント埋入を可能にするため、ダイヤモンドバーを用いて側方上顎洞ウィンドウを作製した。この操作により、上顎洞天蓋の直視下での確認が可能となり、インプラントの安全かつ正確な位置決めが容易になった。上顎洞粘膜は穿孔や損傷を避けるために慎重に挙上され、インプラント挿入のための明確な経路が確保された。
頬骨へのドリリングは、回転数600 rpmに制御されたインプラント用ハンドピースを用いて行われた。その後、Nobel Biocare社製のザイゴマインプラント(TiUnite表面、45度アングル、直径4.3 mm)が埋入された。インプラントの長さは患者ごとの解剖学的条件に基づき、30 mmから52.5 mmの範囲で選択された。
各インプラントの上顎および上顎洞との位置関係は慎重に記録された。埋入位置は、構造物に対する位置に基づき「洞内型または洞外型」「上顎内型または上顎外型」に分類された。これにより、インプラントの方向性および周囲解剖構造との統合に関する詳細な理解が保証された。
術後管理
術後24時間以内にスクリュー固定式の仮アクリルブリッジが装着された。最終補綴修復は術後5か月で製作・装着され、患者は5年間の定期的なフォローアップを受けた。フォローアップでは、インプラントの安定性、上顎洞の健康状態、および補綴機能に重点が置かれた。
3. 結果
骨膜下インプラントとザイゴマインプラントの比較にあたり、いくつかの基準が考慮された(Table 2)。
3.2. 手術時間
ザイゴマインプラントの埋入はより短時間で行うことができたが、個別設計インプラントの精緻な埋入は高い精度と安定性を確保し、手術時間がやや長くなる一方で長期的な合併症を減少させる結果となった。ザイゴマインプラントはテンプレートを用いずフリーハンドで埋入されたのに対し、一部の個別インプラントはテンプレートを用いてガイド下に埋入された。個別インプラントにおいて手術時間が長くなったのは、骨をテンプレートに適合させるための調整が必要であったためである。さらに、骨膜下インプラントでは下顎外斜線(linea obliqua)からの骨移植が併用された症例もあり、これによっても手術時間が延長した(Figure 10)。
3.3. 上顎洞の術後病変
個別設計インプラントを使用した患者は、ザイゴマインプラントを使用した患者と比較して、術後の上顎洞病変の発生が少なかった(p < 0.05)。個別インプラントの設計と埋入手技により、上顎洞粘膜の穿孔やそれに関連する合併症のリスクが最小限に抑えられた(Figure 11)。
3.4. 軟組織退縮
個別設計インプラントでは、ザイゴマインプラントと比較して軟組織退縮の発生頻度が有意に低かった(p < 0.05)。個別インプラントの精密な設計と埋入位置により、軟組織の統合が向上し、審美的な結果も改善された(Figure 12)。
エクストラマキシラリー法によるザイゴマインプラント埋入は、軟組織裂開のリスクが高い(p < 0.05)。
3.5. 術後粘膜の厚さ
術後の粘膜厚は、個別設計インプラントを使用した患者でより安定していた。個別インプラントに伴う周囲構造への機械的ストレスの軽減が、術後成績の改善に寄与したと考えられる(p < 0.05)(Figure 13)。
3.6. 炎症およびインプラントの動揺
個別設計インプラントを使用した患者では、ザイゴマインプラントと比較して炎症およびインプラントの動揺が著しく低かった。個別インプラントの高い安定性と生体適合性が、これらの合併症の軽減に寄与したと考えられる(p < 0.05)(Figure 14)。
3.7. 統計解析
統計解析の結果、両群間の手術時間の差はクラスカル–ウォリス検定により統計的に有意であることが確認された(p < 0.05)。同様に、個別設計インプラントにおけるインプラント失敗率の低下、上顎洞病変の減少、軟組織退縮の減少などの合併症率の低下の傾向も、カイ二乗検定に基づきすべて統計的に有意であった(p < 0.05)。これらの結果は、観察された治療成績の差が臨床的に重要であることを強調している。
4. 考察
5年間の追跡調査を通じたザイゴマインプラントとサブペリオステアルインプラントの比較評価は、重度上顎萎縮症例における両手法の臨床的強みと限界を浮き彫りにした。本考察では、本研究の結果を整理し、文献のエビデンスと照合することで、これら高度なインプラント治療法に関する包括的かつ詳細な理解を提供する。各手法の特性と課題を掘り下げることで、臨床的意思決定に有用な視点を示すことを目的とする。
4.1. インプラントの生存率および成功率
本研究の結果は、ザイゴマインプラントとサブペリオステアルインプラントの5年間における生存率がほぼ同等であることを示しており、文献で報告されている高い生存率と一致する [11,12,13]。本研究における生存率は、ザイゴマインプラントで96.3%、サブペリオステアルインプラントで97.1%であり、統計的有意差は認められなかった(p = 0.278)。これらの傾向は、Polidoら(2023年)、Anituaら(2024年)、Vairaら(2024年)の系統的レビューでも報告されており、両インプラントとも95%以上の生存率が示されている [11,12,14]。
合併症の性質において有意な差が認められた。ザイゴマインプラントは、上顎洞関連合併症や眼窩損傷のリスクが高いことが報告されている [13,15]。本研究でも、ザイゴマインプラント群の上顎洞関連合併症発生率は12.4%であったのに対し、サブペリオステアルインプラント群は5.6%であり、統計的に有意な差が認められた(p < 0.05)。さらに、サブペリオステアルインプラントは固定部周囲の軟組織刺激や感染の発生が少なく、解剖学的に複雑な症例での有用性を示唆している [16]。ザイゴマインプラントにおける眼窩底損傷のリスクは稀ではあるが、文献に示されるように高度な手術計画と熟練した技術が必要な重大合併症である [15]。
また、ザイゴマインプラントがオッセオインテグレーションを欠いた場合、代替手段は限られる。失敗したインプラントを除去すると、頬骨は著しい吸収を起こすことが多く、同一部位への再埋入は困難である [13]。これに対し、サブペリオステアルインプラントの失敗例では、約3か月の治癒期間を置いた後に再埋入が可能であり、治癒後の解剖学的条件に合わせてインプラント設計を修正することで柔軟かつ信頼性の高い治療が行える。
本研究では、ザイゴマインプラントとサブペリオステアルインプラントの生存率は同等であったが、サブペリオステアルインプラントがわずかに有利な傾向が見られた。その理由として、ザイゴマインプラントは即時機能荷重には有効であるが、標準化された設計で個々の解剖学的差異を十分に考慮していない可能性がある。また、ザイゴマインプラントは頬骨に固定されるため、片持ち梁力による機械的ストレスを受けやすく、長期的には小さな合併症が生存率に影響する可能性がある。
術者経験、患者選択基準、術後管理の差異なども、観察された違いに影響している可能性がある。これらの要因をより詳細に検討するために、より大規模なコホート研究およびサブグループ解析が望まれる。
4.2. 機能的および補綴的アウトカム
機能性と補綴成功は、インプラント効果を評価する上で重要な指標である。本研究において、ザイゴマインプラントおよびサブペリオステアルインプラントは即時荷重が可能であり、患者は迅速に咀嚼機能と審美性を回復できた。これは、現代に求められる短期間治療や患者満足度向上のニーズに適合する [17]。ザイゴマインプラントの即時荷重能力は、頬骨への堅固な固定と短期間の治療を反映している。
一方、サブペリオステアルインプラントは長期的な軟組織安定性に優れ、インプラント周囲炎の発生も少なかった。本研究では、インプラント周囲軟組織の健康維持における角化粘膜の重要性が強調されている。
4.3. 患者個別の考慮事項
ザイゴマインプラントとサブペリオステアルインプラントの選択は、解剖学的条件や全身的要因など患者個別の要素に依存することが多い。サブペリオステアルインプラントは、個々の解剖学的差異に柔軟に対応できるため、上顎洞や眼窩近接によりザイゴマインプラントが禁忌となる症例に適している [9]。
また、ザイゴマインプラントは即時修復が必要な症例で有利であり、特に即時埋入を行う場合に顕著である。しかし、眼窩や上顎洞など重要構造への近接により、高度な手術技術が求められる [2]。サブペリオステアルインプラントは、個別の解剖学的差異に適応可能であり、侵襲的手技が難しい症例でも安全に適用できる [18]。
4.4. コストに関する考慮
ザイゴマインプラントとサブペリオステアルインプラントを評価する上で重要な要素の一つは製造コストである。サブペリオステアルインプラントは、先進的な画像診断や3Dプリントを用いたワークフローを必要とするため、量産されるザイゴマインプラントと比較してコストが高くなる [9]。サブペリオステアルインプラントは患者個々の解剖学的構造に合わせてカスタム設計され、画像診断、CAD設計、積層造形技術を用いて製作される。これらの工程により、標準化されたザイゴマインプラントよりも製造コストは高くなる。一方、ザイゴマインプラントは標準化された設計の量産品であるため、スケールメリットにより製造費用が抑えられる [19]。しかし、各インプラントの総合的コスト効果は、製造費用だけでなく、手術の複雑性、術者の技量、長期成績、合併症率などによっても左右される。これらの経済的要素は、特に資源制約のある環境での臨床的意思決定において重要である。
4.5. 手術リスク軽減の戦略
コーンビームCT(CBCT)などの高度な術前画像診断は、高解像度の三次元解剖情報を提供し、手術計画において重要な役割を果たす。これにより、上顎洞や眼窩底などの重要構造を正確にマッピングでき、インプラント埋入時の穿孔や損傷のリスクを最小限に抑えることができる [20]。
また、デジタルワークフローや手術用テンプレートを活用したガイドサージェリーは、仮想計画を正確に術中に反映させることで精度を向上させる。これにより、インプラントの角度や深さのばらつきを減少させ、解剖学的に複雑な症例でも最適な埋入を可能にする [21]。
さらに、術中ナビゲーションシステムは、手術中にリアルタイムでフィードバックを提供し、インプラント位置を動的に調整することを可能にする。これは特に重度上顎萎縮症例で有用であり、小さな位置ずれでも重大な合併症につながる可能性がある場合に安全性を高める。
これらの先進的ツールの統合により、手術リスクを低減するだけでなく、経験の浅い術者の学習曲線を短縮し、全体的な患者成績を向上させることができる。将来的には、拡張現実(AR)支援手術などの革新的技術が、インプラント手技の安全性と精度をさらに高める可能性がある [22]。
4.6. 臨床的意義および今後の展望
本研究の結果は、適切なインプラント手法を選択する上で個別化治療計画の重要性を強調している。ザイゴマインプラントは即時機能荷重や治療期間の短縮に優れる一方で、眼窩底損傷や上顎洞合併症などのリスクが伴い、高度な手術技術と慎重な患者選択が求められる。
一方、サブペリオステアルインプラントは、長期的な安定性や低合併症率に優れ、特に解剖学的に複雑な症例で有用である。本研究で示されたように、先進的なデジタルワークフローと積層造形技術の導入により、サブペリオステアルインプラントの安全性と予測可能性は大幅に向上している。
今後の研究では、これらの手法の長期的な追跡調査やランダム化比較試験に焦点を当て、エビデンスに基づく推奨をさらに強化することが望まれる。また、角化粘膜やインプラント周囲組織の統合を向上させるバイオマテリアルや再生医療技術の革新により、治療成果の最適化が期待される。さらに、患者報告アウトカム(生活の質や満足度など)を評価することで、各インプラント手法の臨床的利益をより包括的に理解することが可能となる。