ザイゴマ インプラントに関連した論文

本日紹介する論文は、

異なる角度を有するオールオンフォーのインプラントおよびザイゴマインプラント周囲の応力分布の比較:7つのモデルを用いた有限要素解析

~はじめに~

今回ザイゴマインプラントに関連した論文でご紹介するのは2024年9月にBMC Oral Health で公開されたこちらの論文です。All-on-4 におけるインプラントおよびザイゴマインプラントに加わる応力を有限要素解析 (FEA) を用いて詳細に検証した論文です。角度やインプラントの種類による応力の変化の比較など、今後の治療計画に応用できる論文と思われます。

〜緒言〜

萎縮した上顎に対する歯科インプラントを用いたリハビリテーションは、重度の歯槽骨吸収、上顎洞の含気化、および鼻下部骨量の不足といった解剖学的・生理学的制約により、従来より困難な課題とされてきた。これらの制約を克服するため、近年では複雑な外科的手技に代わる方法として、最小限のインプラント本数によるフルマウス固定性補綴に基づく低侵襲な治療方法への関心が高まっている。この観点から、ザイゴマインプラントは、その本数や配置のバリエーションを含め、萎縮した上顎の治療において高度外科処置や骨移植の有効な代替法として良好な成績が報告されている。

ザイゴマインプラントに加え、「All-on-4」と呼ばれるコンセプトも、萎縮した上顎骨における骨造成手技の代替として注目を集めている。All-on-4コンセプトは、前方部に軸方向に埋入された2本と、後方部に遠心傾斜して埋入された2本の計4本のインプラントにより、無歯顎の上顎または下顎に対してフルアーチ固定性補綴を可能とするものである。

近年、ザイゴマインプラントおよびAll-on-4システムのいずれについても、萎縮した上顎骨の治療における臨床的成功を示す報告が多数発表されている。しかしながら、著者らの知る限り、これらの治療法の生体力学的挙動を直接比較した研究は存在しない。

そこで本研究では、有限要素解析(FEA)を用いて、無歯顎上顎におけるザイゴマインプラントとオールオンフォーコンセプトについて、異なるインプラント配置を条件として、インプラントおよびインプラント周囲骨に生じる応力の大きさおよび分布を検討することを目的とした。

〜材料・方法〜

有限要素モデル

本研究では、上顎骨、頬骨、インプラント体および上部構造の三次元(3D)有限要素モデルを用いて、インプラントおよび周囲の皮質骨ならびに海綿骨における応力の大きさおよび分布を評価した。上顎骨および頬骨の3Dモデルは、重度の上顎骨吸収を呈する完全無歯顎患者のコンピュータ断層撮影(CT)画像データセット(ILUMA, Orthocad, CBCT, 3M Imtec, Oklahoma, USA)から作成した。断面厚0.2 mmで体積データを再構築した後、各断面はDigital Imaging and Communications in Medicine(DICOM)3.0形式で出力した。骨組織は、3D-Doctorソフトウェア(Able Software Corp., MA, USA)を用い、インタラクティブセグメンテーション法によりハウンスフィールド値に基づいて分離した。セグメンテーション後、3Dコンプレックスレンダリング法により三次元モデルを構築した。

インプラントおよび補綴コンポーネントはSmartOptics 3Dスキャナーによりスキャンし、Standard Tessellation Language(.stl形式)としてRhinoceros 4.0ソフトウェア(3670 Woodland Park Ave N, Seattle, WA 98103, USA)へ転送した。Rhinoソフトウェア上でブーリアン法を用いて補綴コンポーネント、インプラントスクリューおよび骨組織の上部および下部構造を統合し、力の伝達を可能とした。

有限要素解析(FEA)は、以下の7種類の異なるインプラント配置について実施した。

モデル1:両側前方インプラント(0°)および両側後方インプラント(遠心傾斜30°)(Fig 1)


モデル2:両側前方インプラント(0°)および両側後方インプラント(遠心傾斜45°)(Fig 2)


モデル3:両側前方インプラント(頬側傾斜17°)および両側後方インプラント(遠心傾斜30°)(Fig 3)


モデル4:両側前方インプラント(頬側傾斜17°)および両側後方インプラント(遠心傾斜45°)(Fig 4)


モデル5:両側前方インプラント(0°)および両側ザイゴマインプラント(45°)(Fig 5)


モデル6:両側前方インプラント(頬側傾斜17°)および両側ザイゴマインプラント(45°)(Fig 6)


モデル7:前方インプラントなし、両側に2本のザイゴマインプラント(45°)(Fig 7)

 

前方インプラント(3.5×10 mm)は側切歯と犬歯の間に埋入し、後方インプラント(4.3×10 mm)は第二小臼歯と第一大臼歯の間に埋入した。ザイゴマインプラントの長さは、歯槽頂から頬骨の頬骨点までの距離に基づいて決定した。ザイゴマインプラントは、歯槽頂線に沿って小臼歯部および大臼歯部において歯冠側端が位置し、インプラント先端が頬骨内に埋入されるように配置した。第7モデルでは、さらに2本のザイゴマインプラントを追加し、側切歯および犬歯部から頬骨へ延長するように埋入した。これらのインプラントは、サイナススロットテクニックに従い、上顎洞外側壁に沿って走行するよう設置した。

皮質骨、海綿骨、補綴構造およびインプラントは、それぞれの正確な形態を反映するようモデル内に配置した。モデリング工程は、Rhinoceros 4.0およびVRMesh(VirtualGrid Inc., Bellevue, WA, USA)を用いて、各モデルを三次元空間内の適切な座標に配置することで完了した。

その後、解析のために各モデルを.stl形式でAlgor Fempro(ALGOR, Inc., 150 Beta Drive, Pittsburgh, PA, USA)へ転送した。

メッシング工程においては、可能な限り10節点のブリック要素を用いてモデルを構築した。構造物中心付近の領域では、節点数の少ない要素も併用した。解析を容易にするため、モデル内の縦方向で狭小な領域については線要素を除去し、規則的な形状に調整した。メッシュサイズおよび要素数の妥当性を担保するため、許容誤差5%のメッシュ収束試験を実施した。すべてのモデルにおける要素数および節点数はTable 1に示す。

すべてのモデルは、線形弾性体、均質体、および等方性体であると仮定した。各構造の弾性係数およびポアソン比は文献より取得し、その値をTable 2に示す。

顎骨の下部および上部、ならびに上部構造は、各自由度(DOF)において変位および/または回転が生じないよう固定条件を付与した。各モデルにおいては、咀嚼時の接触状態を模擬するために荷重負荷部位を設定した。咬合力の再現として、第一大臼歯部に垂直荷重200 N(50×4)を付与し、さらに側切歯部には垂直方向に対して45°の傾斜を有する50 Nの斜め荷重を負荷した(Fig 8)。

三次元有限要素解析(3D FEA)を実施し、インプラントに発生するミーゼス応力(von Mises応力)、ならびにインプラント周囲の皮質骨および海綿骨における最大主応力および最小主応力を算出した。

応力解析においては、歯科インプラントにはミーゼス応力を適用し、インプラント周囲の皮質骨および海綿骨には最大主応力(引張応力)および最小主応力(圧縮応力)を算出した。各構造における最大応力値は、最大値を示す節点を選択することにより定量化した。応力値の算出には、ソフトウェアに備えられた範囲設定、カラースケールおよび大きさスケールを用いた自動計算機能を利用した。ミーゼス応力、引張応力および圧縮応力はカラーマップにより表示した。ミーゼス応力および引張応力の評価画像では、赤色領域が高応力部位を示し、応力の低下に伴い緑色および青色へと変化した。一方、圧縮応力の画像では、青色領域が高応力部位を示し、応力の低下に伴い赤色へと変化した。

〜結果〜

皮質骨

荷重負荷時における皮質骨の最大および最小主応力値は、Table 3およびFig 9に示す通りである。最大主応力の最高値はモデル2において4.346メガパスカル(MPa)で認められた。一方、最大主応力の最小値は、ザイゴマインプラントと併用した第5および第6モデルにおいて、それぞれ0.949 MPaおよび0.817 MPaであった。最小主応力の最高値はモデル3において−28.840 MPaで認められた。また、最小主応力の最低値はモデル6の歯科インプラント周囲において−3.585 MPaで観察された。

(a)最大主応力分布。赤色は高応力領域、青色は低応力領域を示す。
(b)最小主応力分布。青色は高応力領域、赤色は低応力領域を示す。
G1~G7は各解析モデル(Group 1~7)を示す。

海綿骨

荷重負荷時における海綿骨の最大および最小主応力値は、Table 4およびFig 10に示す通りである。最大主応力の最高値はモデル3において0.872 MPaで認められた。一方、最大主応力の最小値はモデル7のザイゴマインプラント周囲において観察され、それぞれ0.119 MPaおよび0.177 MPaと算出された。最小主応力の最高値はモデル4において2.615 MPaで認められた。最小主応力の最小値は、4本のザイゴマインプラントを含むモデル7において0.267 MPaと算出された。

(a)最大主応力分布。赤色は高応力領域、青色は低応力領域を示す。
(b)最小主応力分布。青色は高応力領域、赤色は低応力領域を示す。
G1~G7は各解析モデル(Group 1~7)を示す。

インプラント

荷重負荷時における前方および後方インプラントのミーゼス応力値は、Table 5およびFig 11に示す通りである。前方インプラントにおけるミーゼス応力の最大値はモデル3において38.141 MPaで認められた。後方インプラントでは、モデル1において最大値97.002 MPaが観察された。ミーゼス応力は、主としてインプラント頸部において高値を示した。

最小の応力集中は、モデル5の前方歯科インプラントにおいて20.446 MPaとして認められた。後方インプラントにおける最小の応力集中は、4本のザイゴマインプラントから構成されるモデル7で観察された。

文献によれば、チタン製インプラントの弾性変形における引張強さは1119 MPaと報告されている。本研究においては、いずれの条件においてもインプラントに生じたミーゼス応力は、チタン材料の耐久限度を超えることはなかった。

〜考察〜

文献を渉猟した限り、萎縮した上顎骨の再建において、異なる埋入角度を有するザイゴマインプラントとオールオンフォーシステムの生体力学的挙動を比較した報告は認められなかった。したがって、本研究の結果を既存の知見と対比して考察する。

本研究の結果より、すべてのモデルにおいて皮質骨における応力値は海綿骨よりも高値を示し、これはインプラントおよび骨組織に加わる応力を検討した既報と一致する結果であった。この理由として、皮質骨は海綿骨に比べ弾性係数が高く、かつ荷重を最初に受ける部位であることが挙げられる。天然歯列においては、最大主応力は歯根膜線維を介して骨形成を促進し、最小主応力は骨吸収を引き起こすことが知られている。一方、インプラント周囲では歯根膜が存在しないため、最大および最小主応力が一定値を超えると骨吸収が生じるとされている。

Pellizzer et al.は2011年に、異なるインプラント支持補綴およびインプラント配置における応力分布を検討し、スクリュー固定は応力集中を増加させると報告した。また同研究では、インプラントの傾斜角の増加に伴い応力集中が増大することも示されている。本研究においても同様に、皮質骨における最大主応力はモデル2で最も高値を示し、後方インプラントの傾斜角を30°から45°に増加させることで引張応力が増大することが示唆された。この傾向はモデル3とモデル4の比較においても同様であった。海綿骨においては、最小主応力がモデル4で最大となり、後方インプラントの45°傾斜によりモデル3と比較して圧縮応力が増加した。同様の傾向はモデル1とモデル2の比較でも認められた。総じて、45°に傾斜した後方インプラントを有するオールオンフォーモデルにおいて最も高い応力が観察された。

傾斜インプラントの有効性を評価した研究は多数存在するが、カンチレバー長を一定とした条件下でどの治療計画がより有効であるかを検討した研究は限られている。ある5モデルの有限要素解析研究では、0°、15°、30°、45°の傾斜を有する4本のインプラントを用いた上顎モデルを検討し、インプラント傾斜角の増加に伴い皮質骨および海綿骨の応力が減少し、カンチレバー長が短縮すると報告している。また、Ozan et al.は下顎モデルにおいて同様の解析を行い、後方インプラントの傾斜角増加およびカンチレバー短縮により応力集中が軽減すると報告している。本研究の結果がこれらと一致しなかった理由として、本研究ではカンチレバー長を一定とし、インプラント角度のみを変数とした点が影響していると考えられる。

上顎前方に十分な骨量が存在する場合、2~4本の通常インプラントとザイゴマインプラントを併用する方法が有用とされている。Bedrossian et al.は34か月の追跡研究において、44本のザイゴマインプラントおよび80本の前上顎インプラントを埋入し、それぞれ100%および91.25%の成功率を報告している。一方、最近のメタアナリシスでは、重度に吸収した上顎に対してクアッドザイゴマを用いた補綴が高い成功率およびインプラント生存率を示すことが報告されている。

ザイゴマインプラントの最適な埋入角度については一定の見解は得られておらず、上顎骨の形態や吸収様式に依存する。Rossi et al.は2008年に4本のザイゴマインプラントの適切な埋入位置および方向を検討し、ご献体を用いた研究・調査において理想的な角度は43.8°~50.6°の範囲であると報告している。本研究ではこれに基づき、ザイゴマインプラントの角度を45°に設定した。

皮質骨における最大主応力の最小値は、第5および第6モデルにおいてザイゴマインプラントと併用された歯科インプラント周囲で認められた。同様に、最小主応力の最小値も第6モデルの歯科インプラント周囲で観察された。これらの結果から、ザイゴマインプラントと通常インプラントの併用は応力の低減に寄与する可能性が示唆される。一方、4本のザイゴマインプラントを用いた第7モデルでは、前後領域の応力が均衡し、総応力量も最も低値を示した。この結果は、クアッドザイゴマモデルにおいて応力がより低かったとするVarghese et al.の報告と一致する。

加齢に伴い生体の代謝バランスは分解側へ傾き、骨組織に生理的吸収が生じる。上顎前方部では吸収様式により陥凹が形成され、インプラント埋入を困難にする。このような場合、前方部における頬側傾斜インプラントやアングルドアバットメントの使用が選択されることが多い。文献的には、アングルドアバットメントの使用および角度はインプラントや補綴の成功率に影響しないと報告されている。本研究では、モデル1、2および5において前方インプラントは0°で埋入し、モデル3、4および6では17°頬側傾斜としてアングルドアバットメントを使用した。

歯科インプラントのみを用いたモデル1~4では、前方インプラントを0°で埋入した場合、モデル3および4と比較して海綿骨における最小主応力および後方インプラント周囲の最小主応力が低下した。一方、皮質骨では前方インプラント周囲の最小主応力が増加した。ザイゴマインプラントと併用したモデル5および6では、前方インプラントを0°とすることで前方部皮質骨の最小主応力は増加する一方、後方インプラント周囲の最大主応力は減少した。

前後比較では、すべてのモデルにおいて後方部でより高い応力が認められた。また、インプラント単位で比較した場合も同様に後方インプラントの応力が高値を示した。特に、後方部に配置された傾斜インプラントは前方部より高い応力値を示した。

本研究には有限要素解析の特性に起因するいくつかの限界が存在する。第一に、インプラントと骨との間に100%のオッセオインテグレーションが成立していると仮定した点である。臨床的には炎症、薬剤、代謝性疾患などによりオッセオインテグレーション率は低下し得る。また、有限要素解析における画像解釈にも注意が必要である。高応力を示す赤色領域は材料の永久変形を意味するが、これは生体組織には直接適用できず、固体モデルに基づく評価である。Harold Frostの理論に基づけば、高応力部位は骨吸収が最初に生じる可能性のある領域と解釈されるが、必ずしも吸収が生じることを示すものではない。さらに、本研究では皮質骨および海綿骨を均質かつ等方性と仮定したが、実際の骨は異方性を有し、応力・ひずみに大きな影響を及ぼすことが知られている。また、骨の耐荷重限界を超える荷重は骨吸収を引き起こすとされているが、本研究における荷重はその限界を超えていなかった。しかしながら、持続的な咬合負荷により同一部位に応力が集中することで骨吸収が生じる可能性も指摘されている。

以上のような制約は本研究で検討したすべてのモデルに共通しており、本研究の主目的は異なるインプラント配置間の応力比較にあるため、絶対値の評価には慎重な解釈が求められる。

〜結論〜

本研究の限界を踏まえ、以下の結論を得た。

オールオンフォーモデルにおいて、後方インプラントの傾斜角を30°から45°へ増加させることで、後方インプラント周囲の皮質骨および海綿骨における応力は増加した。一方、前方インプラントに17°の頬側傾斜を付与しても、0°と比較して応力値に有意な増加は認められなかった。

ザイゴマインプラントと歯科インプラントを併用することは、両者周囲の生体力学的応力の低減に寄与する可能性が示唆された。

今後は、オールオンフォーシステムおよびザイゴマインプラントにおける異なる傾斜角が成功率に及ぼす影響について、長期的な臨床研究により検討する必要がある。

~あとがき~

今回の論文はいかがでしたでしょうか。インプラントによる過剰な応力によって起こりうる骨吸収を心配されてオールオンフォーやザイゴマインプラントを行うことを踏み出せなかった先生方もいらっしゃるかと思われます。しかし、適切な治療計画によって過剰に応力がかかることを回避できる可能性があることが分かり、挑戦してみたいと思われた先生方もいるかと思います。患者さんにとって一つでも多くの治療方針を提案できるよう、この機会にぜひオールオンフォーとザイゴマインプラント治療を始めてみませんか。