コンテンツへスキップ

論文抄読 vol.2

  • by
perio zygoma

ザイゴマインプラントに関連した論文

本日紹介する論文は、

~はじめに~

今回ご紹介するのは2014年にPeriodontology 2000にて報告されたこちらの論文です。ザイゴマ インプラントの埋入手術のための手術前のプランニングや術式、そしてザイゴマインプラント治療の成功の判断基準をZAGA Centersの創始者であるCarlos Aparicio先生およびZAGA Centersの先生方が執筆しており、ザイゴマインプラントを用いた治療の指針となる論文だと思われます。 近年ITIのザイゴマインプラント治療のコンセンサスレポートが発表されましたが、コンセンサスレポートの基となったAparicio先生の考えやザイゴマインプラント治療の成功の判断基準を考える上で役立つ一本だと思われます。骨造成からザイゴマインプラントの歴史、頬骨付近の解剖学およびZAGAコンセプトまで、幅広く学ぶことができる論文です。ザイゴマインプラントをしている先生だけではなく、興味を持っている先生方には是非一度読んで頂きたい論文です。Part1, Part2と分けているため、Part1となる今回はZAGA Centersの掲げているZAGAコンセプトまでの範囲を取り上げます。

~緒言~

上顎において過度に歯槽骨の吸収が生じている場合は上顎洞の存在により通常の歯科用インプラントを埋入することは不可能である。およそ30年に渡り歯科のインプラント治療において歯槽骨が不足している場合、手術の前もしくは術中にGBRを行うことが当たり前となった。サイナスリフトやオンレーグラフトがGBRを行う際に術式として主に用いられている。今回の論文の目的としては:

1) 近年における重度の骨吸収が生じている場合の”Golden Standard” であるGBRの術式について

2) その代替的治療法であるザイゴマインプラントを使用した方法について

3) ザイゴマインプラント治療の成功基準を新たに作製すること

を再考することである。

~従来の骨造成~

ほとんどの場合において、自家骨が骨造成の材料として最も最適であると言われている。骨造成のために採取する自家骨の方法が困難であることが多いことに加え、手術時間やコストの増加など懸念する事項が多い。

様々なシステマティックレビューにおいて術式のガイドラインの作製が困難な理由として臨床研究を行う際の条件がバラバラであることに由来している。しかし、骨造成に関して見解が統一していることもある。例えば腸骨から移植した骨を使用して骨造成した場合、遅延埋入もしくは即時埋入に関わらず10-30%の確率で失敗すると報告されている。

サイナスリフトに関しては様々な報告があるが、その報告や効果については賛否両論である。

サイナスリフトを報告している文献は術式の成功を詳細に定義しておらず、失敗の基準を設けていない。また、初診時の骨の高さや幅、術後の経過写真やX線写真を掲載していない。Lateral Window Technique に関するシステマティックレビューでは、1年で失敗する確率は3.5%であり、3年生存率は90.1%であると報告している。3年生存率で最も結果が良かったものでは98.3%であり、使用したインプラントは表面性状が適度に粗造であるものだった。このLateral Window Techniqueについての論文を書いた筆者らによると、論文には欠点がいくつかあったとのことだった。一つ目の理由としてはRandom Control Trial (RCT) が適切に行われていなかったため、エビデンスの低い論文を含めてしまったこと。

二つ目は選ばれた48編のうち、65%の論文は被験者のドロップアウトの数を記載していなかったことである。三つ目の理由としてインプラント埋入の位置および骨造成が失敗した部位の初診時における歯槽骨の高さがいずれの文献においても不明であったことである。歯槽骨の高さがインプラントの成功に影響すると言われているため、この情報は必須であると言える。四つ目の理由として、全ての症例は大学病院や専門医院などの高度医療機関にて行われたため、全ての歯科医師のもとで同じ結果が得られるかが不明であることである。

ソケットリフトに関してのレビューも同じような結果を示しており、3年生存率が92.58%だった。しかし、16%の文献しかドロップアウトに関して記載していなかった。初診時の歯槽骨の高さが低いほど、成功率が低下することは明らかだった。複数施設によって行われた後ろ向き研究によると、歯槽骨の高さが5mm以上あると生存率96%になることに対して、歯槽骨の高さが4mm以下になると生存率が85.7%になることが明らかになっている。

最近の報告では、Espositoらにより上顎洞付近にインプラントを埋入する際に骨造成が必要かどうかの目安と最も効果的な術式に関して検証が行われた。10のRCTを行い、上顎洞の骨造成を行うことに最も最適な術式および材料について結果をまとめた。残念ながら、最終的な結果は少ないRCTと短い経過観察期間でまとめられていた。よって、このEspositoらの報告はあくまでも参考だけに留めておくべきであり、かなりバイアスがかかっている報告であると言えることからインプラント治療を行う際に骨造成を行うか否かを再度熟考する必要がある

~ザイゴマインプラント治療~

骨造成以外での上顎に対するインプラントの治療法が模索されていた。特に翼突上顎縫合がインプラント埋入のための部位として注目されていた。他には上顎洞付近の骨造成を避けるために傾斜埋入やショートインプラントの使用なども試みていた。ここ20年ほどでザイゴマインプラントを用いた治療が高度な骨吸収を呈している症例に対して効果的であることが証明されている。ブローネマルク型ザイゴマインプラントは当初、上顎の腫瘍切除や外傷による一部欠損、先天異常による骨の形成異常時に使用されるものとして発表された。頬骨弓を長いインプラントのアンカーとして使用し、通常のインプラントと併用することで補綴治療を可能にした。この方法によって義歯以外の選択肢を選ぶことが可能となり、審美性の高い補綴治療が提供できることで笑顔を取り戻すことが可能となった。

左右どちらか片方に2本や3本など複数のザイゴマインプラントを埋入し補綴治療を行うといった方法はBothurらによって提唱された。ザイゴマインプラントの予後が良いという報告が多数あるものの、(この論文が発表された2014年当時) RCTを用いて他の治療方法と比較した報告はない。さらに、ザイゴマインプラントの治療の成功を判断する基準は確立されていない。

~診査、禁忌および術前診断~

当初腫瘍を切除した患者への咬合再構成のためにザイゴマインプラントが使用されていたが、現在では、ザイゴマインプラントは主に上顎における異常顎底吸収を認める症例に使用されることが主流となった。基本的には2本から4本のザイゴマインプラントが通常のインプラントと合わせて使用されている。ザイゴマインプラントの禁忌として急性の上顎洞炎や上顎洞および頬骨の形態的異常、そして全身疾患を理由にインプラント治療を行うことができないことなどが挙げられる。相対禁忌として慢性的な上顎洞炎、ビスフォスフォネート剤の使用および1日20本以上の喫煙習慣が挙げられる。左の図のように、上顎洞炎が初診時に認められる場合は、先に上顎洞炎の治療を行ってからザイゴマインプラントを検討すべきである。

全身的な状態の問診や口腔内の診査を行った後はX線を用いた診査、診断を行う。CTはザイゴマ インプラント治療においては必須とも言える診査であり、ザイゴマインプラントの埋入部位や上顎洞、埋入経路などの確認として重要である。さらにCTにより頬骨弓や歯槽骨の骨量の確認を行うことができる。CTを用いて角度やインプラント体と上顎洞との位置、さらには上顎洞の側壁との位置を確認することができる。当初ザイゴマインプラントの術式では、インプラント体が上顎洞を貫通するようにして埋入する術式であった。ザイゴマインプラントの先端の口蓋の突出する位置に関しては、頬骨、上顎洞と上顎歯槽骨の空間的な位置関係に依存していた。後述するが、上顎洞を貫通しない以下の画像のような埋入経路が提唱され、予後も良好である。

~Bedrossian の分類~

Bedrossian氏によると、上顎は3つの区域、にZone1(前歯部), Zone2 (小臼歯部), Zone3 (大臼歯部)に分類することができる。前述したCTで骨量を確認すべき部位に加えて、この3つのゾーンの骨量を確認するべきである。Zone1 およびZone2 に十分な骨量を認める場合、4〜6本の通常のインプラントで治療することが可能である。最も遠心に埋入されるインプラントを傾斜埋入することで、骨造成を回避することも可能となる。Bedrossianの分類を用いたプランニングの方法を以下にまとめる。

~局所解剖~

従来のインプラントにおいて、初期固定はインプラントの表面性状および硬組織によって出されるものである。この考えはザイゴマインプラントの初期固定を考える上でも重要である。Nkenkeらにより頬骨の骨質と骨量が分析され、頬骨弓の海綿骨はインプラントの埋入には不向きであると報告した。さらに、Corvelloらによって18体のご献体から得られた頭蓋骨を用いてブローネマルクの術式およびExtra-sinus法でのザイゴマインプラント埋入について調べたところ、Extra-sinus法の方が埋入窩が長かったことから、Extra-sinus法がより初期固定を得られやすいと報告している。

~インプラントの形状~

当初のブローネマルクタイプのインプラントは上顎第二小臼歯付近の口蓋側から上顎洞を貫通し頬骨に向けて埋入する方法だったため、通常のインプラントのような形状に加えて通常より長くインプラントの直径も太かった。セルフタッピング機能を持った純チタン性のインプラントであり、表面は機械研磨されていて長さは30mm ~ 52.5mmのものがあった。先端のスレッド部は直径4mmに設定されていた。インプラントのアバットメントとの接合部はインターナルコネクション方式であり角度は0°のものしかなかったが、インプラントの先端が45°に設定された。今日(この論文が発表された2014年当時)有名な企業から販売されているザイゴマインプラントの基本的な形状として表面は粗であり歯槽骨と接する先端はやや直径が太く55°の傾きが付与されている。

~麻酔~

ザイゴマインプラント初期では全身麻酔下にてザイゴマインプラントの埋入が行われていた。現在は全身麻酔は行わず、局所麻酔下もしくは静脈内鎮静と局所麻酔を併用した方法で行われる。

筆者の経験では、局所麻酔下で患者の意識がある方が処置がスムーズに進む。

~新たな術式、Zygomatic Anatomy-Guided Approach~

当初の術式では術後の補綴治療が難解になることがあったため当初の術式を改変し、上顎洞の外から埋入する術式を考案した。筆者らはこの新たな術式をZygomatic Anatomy-Guided Approach (ZAGA) method, つまり患者毎の解剖学的な特徴をもとに埋入を行う術式である。上顎の解剖学的な形状に合わせてプランニングを行うため、埋入を行うにあたって上顎洞の側壁を開窓するなどといった準備は必要ないため、インプラント体が上顎洞内を貫通するか上顎洞の外から頬骨に至るかのどちらかになる。つまり、ザイゴマインプラント埋入の新たな術式は上顎洞の内外で分類するのではなく、患者の上顎洞の形態によって術式を分類することとなる。

ZAGAの術式で手術を行った100数名の患者の術後CBCTを精査したところ、形態学的に興味深いことがわかり、それは上顎洞の側壁、残存歯槽骨量と頬骨バットレスの関係である。上顎洞側壁-歯槽骨-頬骨バットレスの複合体を5つのパターンに分類することができ、それぞれのパターンに対するザイゴマインプラントの埋入経路を決定することができた。このパターンの分類をZAGA分類と呼ぶこととし、ZAGA 0-Ⅳに対する埋入経路を以下のように定めた。

~ザイゴマインプラント埋入後の補綴治療~

ザイゴマインプラントは水平方向の荷重に対して曲がりやすいという性質を持っている。これは主に二つの要因によるものであり、一つはインプラントの長さ(30-52.5mm)、もう一つは上顎の歯槽骨の支持がわずか、もしくはほとんど無いことである。故に、ザイゴマインプラントは前歯部に埋入した通常のインプラント達と強固に固定されなければならない。筆者の臨床経験と生体工学の観点から、上顎のフルアーチの補綴装置は遠心に1本ずつ(合計2本)ザイゴマインプラントが埋入されている場合、最低でも前歯に2本の通常インプラントを埋入して支持するべきである。

補綴治療の流れは従来の方法と同じである。通常ザイゴマインプラントは歯肉の隆起部から10~15mm内側であり、装着するフルアーチの補綴装置は清掃のしやすい形態であるべきである。当初ザイゴマインプラントの治療は2回法であったが、ザイゴマインプラントの普及とともに即時荷重へと変わっていった。上顎の無歯顎の症例に対して即時荷重の結果が良好であることが多数報告された。その中でOstmanらによってインプラントの即時荷重の治療コンセプトを確立し、ザイゴマインプラントに関しては1年の間に20人の患者を治療し、123本のザイゴマインプラントのうち1本のみをロストしたという報告があった。Bedrossianらは1年の間に14人の患者に対して28本のザイゴマインプラントおよび55本の通常のインプラントを埋入し、ロストしたインプラントはなかった。Davoらによる別の報告では6~29ヶ月の間に、36本のザイゴマインプラントはロストしなかったが通常のインプラントは68本中3本がロストした。これらは短期間のフォローアップではあるが、即時荷重はザイゴマインプラントに適している方法であることがいえる。言い換えると、即時荷重を行って悪くなる場合、荷重をかけてすぐに悪くなるため時間経過と共に悪くなるとは考えにくい。

プロビジョナルレストレーションはザイゴマインプラントを埋入した患者には重要である。プロビジョナルレストレーションの目的は治癒の間に審美や機能回復のために装着するだけではなく、咬合の位置を確定するために必須である。また最終補綴と同様に何かあった場合に外せるようにスクリュー固定型のものにすべきである。このことから、術者は咬合のことを想定しながら術野と対合にある残存歯を考慮しつつインプラント上部に適切な長さと角度のアバットメントを選ばなければならない。アバットメントの角度はアクセスホールの位置だけではなく最終補綴装置の厚みを決定する上で重要である。以前筆者らが発表した報告でも記載しているが、補綴の設計は術中から既に始まっているといっても過言ではない。実際、適切なアクセスホールの位置を獲得するためにインプラント埋入時に対合の歯列に合わせて傾斜埋入しなければならない。

~ザイゴマインプラント治療の予後の実際~

英語で書かれたジャーナルのレビューを集めたところ、ザイゴマインプラントの治療結果および予後について報告していた32本の文献があり、合計で1031人の患者に対して2131本のザイゴマインプラントが埋入されており、フォローアップ期間は6ヶ月から12年だった。そのうち、42本は脱落し、生存率は98.1%だった。しかしながら、考慮しなければいけないのは文献によっては対象としている患者群が被っているため、正確な患者数およびインプラント数に関しては疑問が残る。それに比較して、ザイゴマインプラント埋入時に前歯部に埋入された3297本の通常のインプラントの生存率は95.9%だった。以下にまとめた表を載せる。

~Part2へ続く~

今回の論文はいかがでしたでしょうか。前半であるPart1では主にザイゴマインプラントと従来のGBRを行ったインプラント治療の歴史から ZAGAのコンセプトの紹介から補綴治療に至るまで、 Aparicio先生の考えを深く知ることができたと思われます。Part1だけでもザイゴマインプラントを行う上での必須とも言える知識がたくさんあると言っても過言ではないと思われます。

Part2ではいよいよザイゴマインプラント治療の成功とは具体的にどういうことなのか、そしてそれをどう判断するのかをAparicio先生の考えとともに読み解いていきたいと思います。

ご意見・ご感想、今後知りたい内容や気になる論文などがあればコメント欄にお気軽にコメントしてください。

コメントを残す

コメントを残す